東大ベンチャーが開発する、AI×画像診断 医療業界への新取り組み事例
AI製品やAIサービスと聞いて、多くのヒトが思い出すのはAIスピーカーやAIチャットボットでしょう。こうした自然言語処理を活用したAIとはべつに、AIによる画像認識を応用したAIサービスも開発されています。本記事では、こうしたAIによる画像認識を活用したシステムの事例を医療業界において確かめていきます。
医師をサポートするAIの眼「EIRL(エイル)」
2014年に東京大学の研究室のメンバー3名で起業したLPixel(エルピクセル株式会社)は、AIを活用した画像診断システム「EIRL(エイル)」を開発しています。
同システムは、医師に寄り添うパートナーあるいは医師のもうひとつの眼になることをコンセプトとして、開発が続けられています。医療という人為的ミスが人命の危機に直結する分野においては、AIの学習データの品質が厳格に保証されていなければなりません。そのため、同システムに活用される学習データは、医師によるダブルチェック、トリプルチェックを受けたものとなっています。
現在、同システムは以下のような診断が可能とあるように開発が進められています。
・脳動脈瘤:MRA画像(脳の血管が観察できる画像)から、未破裂脳動脈瘤に似ている画像パターンを検出して、見落としを防止
・大脳白質病変:脳のMRI画像から大脳白質病変の疑いのある領域を検出することを目指す
・乳がん:機械学習により、乳癌の悪性度を識別することを目指す
・胸部X線画像:読影医の知見から学習することによって、1枚のX線画像から多数の所見を検出することを目指す
ちなみにLPixelは、2017年11月30日、ドイツNRW州のデュイスブルク・エッセン大学医学部とEIRLの性能評価を目的とした共同研究を開始すると発表しました。
大阪市大が開発した乳がん画像診断システム
大阪市立大学は、ディープラーニングを活用した乳がんの画像診断システムの開発を進めており、2018年4月13日には神奈川県横浜市で開催された日本医学放射線学会総会で開発進捗を発表しました。
乳がんの診断方法にはマンモグラフィーと超音波検査の2種類があり、マンモグラフィーのほうが精度の高い診断が可能です。しかし、マンモグラフィーの診断には、熟練した医師の読影技術が必要とされます。
大阪市大は、こうした高スキルが求められるマンモグラフィーによる画像診断をサポートするものとして、AIによる画像診断システムを開発しています。開発手法としてはディープラーニングを採用し、学習用画像データを読み込んでは実際に乳がんの診断を実施し、誤診した場合は正解を教えるとプロセスを繰り返しました。
以上の学習プロセスを実施した結果、90%以上の精度を実現できました。この精度は、ベテランの読影医に匹敵するものです。
今後の予定としては、年内にシステムの臨床試験を開始し、来年には無料公開してAIによる乳がん診断システムの知名度を上げることを目指しています。
NVIDIAが展開する「Project Clara」
ところで、最先端のAI技術を実装した医療システムは、従来では実現できなかった精度で医師をサポートできる反面、導入コストが高くなることが否めません。コンピュータ部品メーカー大手のNDIVIAは、こうしたAIを活用した医療システムの価格を抑制できるようなシステムを提供しています。それが「Project Clara」です。
同システムを使うとAIを活用した様々な画像分析処理を実行できるのですが、こうした処理の実行には一般に高額なハードウェアが不可欠です。しかし、同システムにはNDIVIAが開発したデータセンターGPU「NVIDIA® Tesla® V100 」が実装されたおかげで、導入コストと消費電力を抑制することに成功しました。
ちなみに、GPUとはGraphics Processing Unit(グラフィックス プロセッシング ユニット)の略称で、元々はCGを処理する時に発生する高負荷な演算を実行するために開発されてきた部品です。近年、こうしたGPUを使うとディープラーニングをはじめとしたAIの学習プロセスの実行を効率化できることがわかり、AI業界におけるGPUの需要が伸びています。
以上のようにAIの活用領域は、医療業界にも広がっています。こうした業界でAIを活用するために考えなければならないことは、ルール作りです。現在の医療現場で活用できるAIシステムにはどのような性能が必要なのか、そして、そうした医療用AIシステムの許認可はどのように実行するのか、というような制度作りが求められるのではないでしょうか。
